昨今の社会情勢の変化や、インボイス制度など新たな制度への対応で、売上アップや業務効率化などの生産性向上が急務となっている事業者の方も多いのではないでしょうか。
そのような課題を認識して、生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者に向けて、経済産業省は現在4つの補助金メニューを用意しています(2023年10月現在)。
本記事では、その中で数年前から継続的に実施されていて人気の高い「IT導入補助金」と「小規模事業者持続化補助金(以下、持続化補助金といいます。)」の2つの補助金を、ECサイト制作費で利用するという観点で、違いを見ていきます。
目次
補助金の概要
まずはIT導入補助金と持続化補助金の概要を見てみましょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、労働生産性の向上やセキュリティリスクの低減、インボイス制度対応の推進などを目的とした、「ITツール(ソフトウェア)」の導入経費の一部を支援する補助金です。
IT導入補助金を利用できるのは、予めIT導入補助金事務局に登録されたIT導入支援事業者(販売企業)から、同じく、予め登録されたITツールを導入する経費に限られ、ITツールは基本的にソフトウェアです。
また、IT導入補助金にはいくつかの枠や類型が用意されていますが、ITツールによって申請できる枠や類型が決まってきます。
今回のECサイト制作費は、「デジタル化基盤導入類型」の対象ソフトウェアになっていますので、これ以降のIT導入補助金は「デジタル化基盤導入類型」にスポットを当てて比較していきます。
持続化補助金
持続化補助金は、今後相次いで直面する制度変更に対応するため、小規模事業者が取り組む「販路開拓等」の経費の一部を補助する事により、小規模事業者の生産性向上と持続的発展を図ることを目的とした補助金です。
持続化補助金は、IT導入補助金と違い販売企業や経費内容の事前登録はなく、ソフトウェア・ハードウェア・購入費など幅広い経費が対象となっています。
また、いくつかの枠が用意されていますが、ECサイト制作であっても、申請者の現状や今後の対応から枠を選択して申請する形になりますので、比較的利用範囲の広い補助金になっています。
利用可能な対象事業者
どちらの補助金も業種などによって条件が異なってきますので、その違いを見ていきましょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、業種ごとに定められた「資本金」または「従業員数」のどちらか一方が、下記の表の数字以下である事業者が利用可能な補助金です。
業種 |
資本金(出資総額) |
従業員数(常勤) |
製造業、建設業、運輸業 |
3億円 |
300人 |
ゴム製品製造業 |
3億円 |
900人 |
卸売業 |
1億円 |
100人 |
サービス業 |
5,000万円 |
100人 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 |
3億円 |
300人 |
旅館業 |
5,000万円 |
200人 |
小売業 |
5,000万円 |
50人 |
その他業種 |
3億円 |
300人 |
※資本金/出資金の無い特殊な法人の条件は割愛
※参照:IT導入補助金2023公式サイト
どちらか一方が表以下なので、例えば「小売業」で「従業員数60人」だが、「資本金1,000万円」という場合は、資本金が下回っているため利用可能です。
また、個人事業主の場合は資本金がありませんので、従業員数が表以下であれば利用可能となります。
ただし、上記以外にも、事業者の属性や主要株主、役員状況などによって利用する事ができないケースもあります。
以下にをいくつか抜粋しますが、それ以外にも特殊な条件で利用できないケースもありますので、詳細は「公募要領」などを確認して、利用できるかしっかりチェックが必要です。
利用できないケース(一部抜粋)
- IT導入補助金2022のデジタル化基盤導入枠で交付決定を受けて12か月を経過していない事業者
- IT導入補助金2023のデジタル化基盤導入枠で交付決定を受けた事業者
- IT導入補助金2023の「IT導入支援事業者(構成員を含む)」に登録済みの事業者
- まだ一度も法人税又は所得税を納税していない(納税証明書が用意できない)事業者
- 宗教法人
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条に規定する「風俗営業」、「性風俗関連特殊営業」及び「接客業務受託営業」を営む事業者
- 事業者の株式総数又は出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している
- 事業者の株式総数又は出資価格の総額の3分の2以上を大企業が所有している
- 大企業の役員又は職員を兼ねている者が、役員総数の2分の1以上を占めている
- 事業者の株式総数又は出資価格の総額を、上記⑦~⑨に該当する中小企業・小規模事業者等が所有している
- ⑦~⑨に該当する中小企業・小規模事業者等の役員又は職員を兼ねている者が役員総数の全てを占めている
- 確定している(申告済みの)直近過去3年分の各年又は各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超える事業者
持続化補助金
持続化補助金は、業種ごとに定められた従業員数が下記の表以下の事業者が利用可能で、IT導入補助金より小規模な事業者が対象となっています。
業種 |
従業員数(常勤) |
商業・サービス業(以下を除く) |
5人 |
宿泊業・娯楽業 |
20人 |
製造業・その他 |
20人 |
※参照:小規模事業者持続化補助金<一般型>ガイドブック
ただし、以下に該当する場合は利用する事ができませんので、詳細は「公募要領」や「ガイドブック」などで確認して、利用できるかのチェックが必要です。
利用できないケース(一部抜粋)
- 資本金又は出資金が5億円以上の法人に直接又は間接に100%株式保有されている事業者
- 直近過去3年分の各年又は各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超えている事業者
- 過去に持続化補助金(一般型、コロナ特別対応型、低感染リスク型ビジネス枠)で採択を受けて補助事業を実施しており、その分の様式第14「小規模事業者持続化補助金に係る事業効果及び賃金引上げ等状況報告書」の提出が完了していない事業者
- 「卒業枠」で採択され事業を実施した事業者
補助金額の上限や補助率
次に、補助金額の上限や補助率などを比較していきましょう。
IT導入補助金
ECサイト制作で利用できる「デジタル化基盤導入類型」の条件は以下となります。
補助金額の上限 |
350万円 |
補助率 |
補助金額~50万円分:3/4 |
補助金額50万円超~350万円分:2/3 |
|
対象経費 |
ソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費など |
※参照:IT導入補助金2023公式サイト デジタル化基盤導入類型公募要領
補足として、デジタル化基盤導入類型では、ECサイトを使用するためのハードウェア(PC、タブレット)を一緒に申請する事も可能です。
補助金額の上限 |
10万円 |
補助率 |
1/2 |
対象経費 |
PC・タブレット等ECサイトを使用するためのハードウェア |
※参照:IT導入補助金2023公式サイト デジタル化基盤導入類型公募要領
持続化補助金
持続化補助金でECサイト制作を利用する場合は、IT導入補助金と違い枠を選択する事ができますが、前提として現在の持続化補助金では、ECサイト制作だけでの利用はできないため、他の経費と一緒に申請する事が必要になります。
枠 |
通常枠 |
賃金引上げ枠 |
賃金引上げ枠(赤字事業者) |
卒業枠、後継者支援枠、創業枠 |
補助金上限 |
50万円 |
200万円 |
||
補助率 |
2/3 |
3/4 |
2/3 |
|
インボイス特例 |
特例の要件を満たす場合は、上記の補助金上限に50万円上乗せ |
|||
ECサイト制作費(註) |
補助率は各枠の通りで、補助金総額のうち1/4以内かつ最大50万円まで |
(註)経費項目は「ウェブサイト関連費」となり、他のWEBサービスも組み合わせて導入する場合はそれらウェブサイト関連費合計の条件となります。
※参照:小規模事業者持続化補助金<一般型>ガイドブック
前述の通り、ECサイト制作だけでの利用はできないため、他の経費と組み合わせる必要があり、ECサイト分の補助金額も低くなる条件になっています。
IT導入補助金と比較すると、一見条件が悪いようにも見えますが、新たな販路や新商品のために制作するECサイトであれば、IT導入補助金では実現できない以下のような組み合わせで申請する事ができるので、持続化補助金も使い方次第で非常に有効です。
- 新商品を製造する機械購入費 + ECサイト制作
- 新商品のチラシ制作費 + ECサイト制作
- 新商品の展示会出展費用 + ECサイト制作
- 情報誌への広告掲載費 + ECサイト制作
申請に必要な書類
続いては、ECサイトを利用する際に申請で必要となる資料を見ていきましょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、申請内容などの必要な情報を全てWEB上で入力・申請する運用となっているため、申請時に必要となる資料は少なくなっています。
法人 |
履歴事項全部証明書(3か月以内のもの) |
法人税の納税証明書(直近期のもの) |
|
個人事業主 |
免許証、運転経歴証明書または住民票(3か月以内のもの) |
所得税の納税証明書(直近年のもの) |
|
確定申告書の控え(直近年のもの) |
※確定申告書は、税務署の収受印またはe-Taxの受信通知が必要です
※参照:IT導入補助金2023公式サイト 交付申請の手引き
持続化補助金
持続化補助金も基本的にWEBで申請する運用ですが、IT導入補助金と違い、所定の文書様式で申請内容を作成し、提出する必要があります。
またそれ以外にも、取得のうえ提出が必要な資料もあるので、資料数はIT導入補助金と比較すると多くなっていす。
作成・署名資料 |
様式1、様式2、様式3、様式6 |
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商工会・商工会議所から取得 |
様式4 |
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申請枠や特例により作成または提出が必要な資料 |
賃金引上げ枠 |
様式7、賃金台帳、全従業員の雇用条件、(赤字事業者のみ)法人税申告書別称一・別表四 |
卒業枠 |
様式8、労働者名簿 |
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創業枠 |
支援を受けたことの証明書、履歴事項全部証明書(3か月以内のもの)または開業届 |
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インボイス特例 |
様式9 |
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法人(NPO法人以外) |
貸借対照表、損益計算書(直近1期分) |
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NPO法人 |
貸借対照表、活動計算書(直近1期分)、履歴事項全部証明書(3か月以内のもの)、法人税確定申告書別表一・別表四(直近1期分) |
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個人事業主 |
確定申告書第一表・第二表(直近年のもの)、青色申告決算書1~4面または収支内訳書1~2面(直近年のもの) |
※各申告書は、税務署の収受印またはe-Taxの受信通知が必要です
※参照:小規模事業者持続化補助金<一般型>ガイドブック
上記だけでも種類が多く複雑ですが、それ以外にも、個別の状況下や加点要素として提出する書類などもありますので、詳細は利用する枠によって、公募要領やガイドブックでチェックする事が大切です。
採択率
最後にそれぞれの採択率を比較してみましょう。
補助金 |
申請数 |
採択数 |
採択率 |
IT導入補助金2022(註.1) |
45,836 |
37,639 |
82.1% |
IT導入補助金2023(註.2) |
31,775 |
24,239 |
76.3% |
持続化補助金2022(註.3) |
43,620 |
27,188 |
62.3% |
持続化補助金2023(註.4) |
13,373 |
7,438 |
55.6% |
註.1:デジタル化基盤導入類型の合計
註.2:デジタル化基盤導入類型第8次締切分までの合計
(参照:IT導入補助金公式サイト)
註.3:2022年度の募集回(8回~11回)の合計
註.4:2023年度の募集回で採択結果の出ている12回のみの数値
(参照:中小企業庁サイト 経営サポート「小規模企業支援」小規模事業者持続化補助金各回の補助事業者採択発表)
IT導入補助金と持続化補助金を比較すると、IT導入補助金のほうが高い水準の採択率になっています。
それぞれ審査基準は公開されていませんが、本記事で記載している通り、IT導入補助金は事前に登録された販売企業とITツールのみが対象で、申請資料も少なめです。
一方で、持続化補助金は対象経費の幅が広く、申請資料も複雑なため、採択を目指すにはより綿密な計画と準備が必要です。
まとめ
今回はECサイト制作費で利用するという観点で、IT導入補助金と持続化補助金の違いを比較してみました。
結果としては、ECサイト制作費だけの利用という状況であれば、IT導入補助金のほうがおススメです。
本記事の記載は要点の抜粋ですが、それでもややこしいと感じ悩まれる方も多いと思いますので、そんな方は専門家に申請サポートを依頼してみるというのもひとつの手です。
私どもG1行政書士法人も、長らくIT導入補助金や持続化補助金の申請サポートを行っており、専門家の知見と長年積み重ねたノウハウを活かして、各補助金の採択率を上回る結果を残していますので、ご興味のある事業者の方はお気軽にお問い合わせください。